傍嶌(かたじま)

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千波はあの崖で思う存分写真を撮って矢野の家へと向かっていた。 もう濡れまくっていた千波は傘も差さずに歩いていた。 その道中でも風に煽られる木や、雨がうちつける水たまりを撮っていた。 「あんたこんな雨の中何してるの!?」 千波の耳に雨音と混じって女性の声が聞こえた。 「家においで!!」 千波はその女性に引っ張られるように家に入った。 「ちょっと待ってて!」 その女性は家の中へと走っていき、千波にバスタオルを渡した。 その時になって初めて千波は女性の顔をよく見ることができた。 歳は50歳ぐらいだろうか、自分の母親よりも少し年上であろうその女性に千波は頭を下げた。 「ありがとうございます…。」 「あんた傍嶌高校の子?寮生なの?」 「あ、はい、寮生です。」 「名前は?」 「天羽 千波です。」 「千波ちゃんか。体冷えたでしょ?お風呂入りなさい。」 千波はその女性に圧倒されて、お風呂に入った。 「あの、ありがとうございました。」 お風呂を上がった千波は女性に声をかけた。 「寮には電話しておいたから今日はここに泊まりなさい。幸い明日は土曜だし。」 千波は女性の言葉に驚いた。 「いやご迷惑ですので…。」 「こんな大雨の中帰した方が心配で寝れないわ。」 千波はこの女性に何を言っても意味がないことを悟った。 「じゃあ、お言葉に甘えて。あの、他にはこの家に住んでる方はいらっしゃらないのですか?」 「今は私一人。四年前に旦那亡くして、娘も今東京の大学に行っているから。」 千波は無神経なことを聞いてしまったと思い、謝った。 「謝らなくてもいいよ。そりゃ泊まる家だもん、知りたいわよ。お腹すいたでしょ?ご飯作ったから食べましょう。」 「ありがとうございます。」 千波は女性の作ってくれた夕食を食べながら、その女性のことを知っていった。 女性の名は高瀬川 祐子といい、この島に嫁いできたらしい。 千波は、ふと思った。 高瀬川がどこか祖母とにているところがあると。 その後夕食も食べ終わり、千波が洗い物をしようとすると高瀬川は 「客人なんだからそんなことしないでいいのよ。二階の部屋に布団敷いてあるから寝なさい。」 千波は高瀬川にお礼を言って二階に上がった。 いつもより随分と早い就寝だったが、相当疲れていたのか、すぐに眠った。
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