傍嶌(かたじま)

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翌日、朝食まで頂いて寮へ帰った。 「おかえり。昨日大変だったんでしょ?雨の中何してたの?」 「写真撮ってました。」 千波はパソコンを開いて、昨日ブログにアップできなかった写真をアップした。 「なんか怖いね…。」 茉莉は昨日の荒れた海の写真を見て、鳥肌が立った。 千波は着替えるとまた出かけて行った。 写真を撮りにも行くが、何より昨日の写真を矢野に見てもらいたかった。 千波は矢野の家の前で一つ深呼吸をして、インターフォンを押した。 「はい?…お前か。」 「お久しぶりです。あの写真を見ていただきたいんですけど、いいですか?」 矢野は表情を変えることなく千波を家に上げた。 矢野は千波にお茶を出し、千波の写真を見た。 写真を見た矢野は鳥肌がたった。 千波の写真に迫力があるのは確かだが、それだけじゃない。 あまりにも昔の自分の写真と似ていたからだ。 「お前はこの荒れた海を見てどう思ったんだ?」 千波はどう答えればいいか悩んだが、何とか言葉にした。 「何かを壊そうとしてるっていうか、何か神様が怒ったっていうか…。」 「それだけじゃないだろ。何かはわからないが、壊せって思ったんだろ?」 千波は目を見開いた。 「…はい。」 矢野はそこまで似ているのかと思った。 そして矢野は唐突に聞いた。 「お前、フィルムカメラは持ってるのか?」 「いえ、持ってません。」 「ついてこい。」 千波は訳も分からず矢野について行った。 二階の一室にあったのはいくつものカメラだった。矢野はその中の一つを手に取った。 「やる。」 そう言って矢野は千波に差し出した。 千波は訳が分からなかった。 「え、いや…さすがに…」 「使ってねぇカメラだ。近所のおっさんにお菓子もらったぐらいの考えでいいんだよ。」 矢野はそう言って千波に無理やりカメラを渡した。 「で、でも暗室とかないんで現像できないし。」 「現像するときは家の暗室使えばいいさ。」 あぁ、その手があるのかと千波は思った。 正直フィルムのカメラが欲しかったし、それも憧れの写真家さんからもらえるなんて夢みたいだった。 悩んだ千波が出した決断は、貰うことだった。 「…ありがとうございます。」
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