覚醒

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 快適で豊かな生活を維持するために人類によって作り出されたアンドロイドは、主人を失ってなお、地球の環境を維持(メンテナンス)し続けていた。  アンドロイドの維持(メンテナンス)機構は、16の部門で仕事を分担している。アンドロイドが活動するために必要な電力を賄う“エネルギーの維持”部門、二千万体すべてのアンドロイドを登録し管理下に置いている“秩序の維持”部門などがあり、S-JDL1500は“種の維持”部門を担当している。  “種の維持”部門の主な仕事は、自然区域に生息する野生動物の保護と観察である。 絶滅危惧種(レッドリスト)に追加される動物たちを憐れんだ人類が、本来ならば淘汰されゆく種を、アンドロイドの徹底管理によって存続させようと設立されたのが“種の維持”部門だ。その結果、唯一“種の維持”の管理外にあった霊長類ヒト目ヒト科が、地球上から姿を消すこととなる。 「アンドロイドが人類を滅ぼす」という科学者の警鐘により、S-JDL1500を含むすべてのアンドロイドにあらゆる制限が設けられた。しかしその制限が、“核の連鎖”やパンデミックから人類を保護できなかった原因でもある。 こうして人類は、その長い歴史に幕を下ろした。自らの手で造り出したアンドロイドを地球に残して。  (セル)の機器を起動させ、移動したヌーとライオンの個体数を、マサイマラ国立公園管轄のアンドロイドと共有する。同時に、ライオンの食糧となるシマウマ、インパラ、ガゼルの個体数が十分であることを確認し、S-JDL1500は“眠り”の支度を始めた。  一日の終わりに、最も古い不要な情報(データ)を消去することを、アンドロイドたちは便宜的に“眠り”と呼んでいる。かつて人類が、眠ることで脳を休めていたことから、そう呼ぶようになった。 理論上死ぬことのないアンドロイドは、“眠り”によってその膨大な情報(データ)を整理する必要がある。身体(ボディ)はその都度、部品(パーツ)の交換によって維持可能だが、容量(メモリー)は有限だからだ。
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