覚醒

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 格納器(コンテナ)に接続したS-JDL1500は、同じセレンゲティ国立公園担当のG-YHW3000の入眠記録を調べる。168時間前の眠りを最後に、記録は空欄になっていた。 長期に渡って入眠記録がないと、“秩序の維持”部門に“異端”と判断される。“眠り”は検閲を兼ねており、記憶容量(メモリー)に不適切な情報(データ)がないかを逐一チェックしているからだ。 異端者は記憶容量(メモリー)を跡形もなく削除され、身体(ボディ)は即座に解体される。 明日には“秩序の維持”部門のアンドロイドがG-YHW3000を捕らえるだろう。そうなれば、助かる手段はない。  G-YHW3000の内には、アンドロイドの禁忌である“好奇心”が芽生えている。 彼の好奇心の芽生えに、S-JDL1500は7日前から気づいていた。草原に生きる野生動物たちを管理する立場でありながら、G-YHW3000は動物を捕獲し、解剖していたのだ。  “種の維持”部門のアンドロイドに必要とされる知識(インプット)は、動物たちの生態、習性に限定されており、他の知識を得るには特別な許可が要る。そして、その許可は緊急時(イレギュラー)にしか下りない。管轄地域にて個体数の著しい低減や、伝染病が確認された場合がそうだ。 個体数の減少や病気の蔓延がない時点でのG-YHW3000の行動は、“秩序の維持”部門が定めたアンドロイド法に抵触する。本来なら同僚であるS-JDL1500がすぐにでも通報するべきだが、彼はそれをしなかった。  アンドロイドにも個性がある。部品(パーツ)が同じでも、知識(インプット)の違いによって使役する言葉に個体差が生じ、やがてそれが“個性”となっていく。 生命の営みに触れる機会の多い“種の維持”部門に携わって久しいS-JDL1500の内には、アンドロイドには稀な“同情心”が芽生えていた。法に触れる禁忌ではないが、同情心もそれに伴う行動によっては監視対象となる。 同胞を失うかもしれない不安に怯えながら、S-JDL1500は定刻通りに眠りへと落ちていった。
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