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翌朝、セレンゲティ国立公園管轄のアンドロイド全個体に、“秩序の維持”部門からの通達が届いた。
『本日10時より、G-YHW3000の異端審問を執り行う。同管轄のアンドロイドには事情聴取をするので、房にて待機せよ』
恐れていたことが起きてしまった。こうなってしまったのは自分の責任だ。もっと早い段階で彼の好奇心の芽を摘んでおくべきだった。
後悔に苛まれながら、S-JDL1500は居ても立っても居られず、房を飛び出した。
今ならまだ、間に合うかもしれない。
マッハ1の速さで、G-YHW3000の房へと向かう。地面との摩擦で脚の部品が溶けていくが、気にしている場合ではなかった。
G-YHW3000を救う方法は2つある。
一つは、異端審問で証人として彼の無罪を主張すること。しかし、一度でも異端審問にかけられたアンドロイドが無罪放免となった凡例はゼロだ。異端即解体。それが“秩序の維持”部門の理念である。救える確率は限りなく低い。
もう一つは、彼の記憶を、別のアンドロイドに上書きしてしまう方法。記憶のバックアップさえできれば、オリジナルの身体が解体されても別の身体で復活できる。勿論、他のアンドロイドを犠牲にするバックアップは甚だしく法に抵触するが、だからこそ成功率は高い。他者のためにそこまでするアンドロイドなど、前例がないからだ。
擦り切れたナイロン製の人工筋肉を引きずり、S-JDL1500は房に辿り着く。しかし、そこにG-YHW3000の姿はなかった。あったのは、かつてG-YHW3000を構成していた部品の一部と、黒く光る宙に浮かんだ球体。
遅かった。何もかも。
S-JDL1500は、自身の回路がショートするのを感じた。
ノイズとともに、視界の四隅からブラックアウトしていく。それにしても、あの黒い球体はなんだろう。とても綺麗だ。
禁忌を侵してまで、G-YHW3000はここで何をしていたのだろう。あの球体は、もしかすると彼の造り出したものかもしれない。だとしたら、興味深いな…
好奇心の萌芽は刹那、鋼鉄の身体を熱したあと、静かに揮発していった。
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