24人が本棚に入れています
本棚に追加
「むぅ、では知らぬ。……これはわしが食べてしまうからな。……そうだ、稲荷の使いの子に分けてやろう」
「……せいぜい見つからないように。それと……」
「む?」
「神の国で人のふりをする必要などなかろうに」
「……姉上は呆れておるのか?」
「……口うるさいものがいるというだけだ」
本当にそれが事実なのだろう。彼女は事実しか言わない。隠す本心すら持っていない。
「むむ……。姉上の意見ではないのなら、わしは聞かぬ。神としてのわしも、この人のふりをしたわしも、わしの思う通りにする。……じゃから、これはわしが上手くいただくからな」
そうクッキーを掲げて見せても姉は表情を変えることはない。うらやましいと思うこともないのだろう。
それはそれで仕方のないことだと朔は思っている。
姉と自分は対である。そして正反対を体現する者同士である。
変わらず上がり続ける太陽と姿を変えて上がり続ける月である。姉弟が動であるときは自分は静であり続けた。で、あるならば、姉が戸のうちに引きこもるならば、自分が外へ出て明るく振る舞うのが、対として作られた自分の本質なのかもしれない。……そう思う時がある。
「本当にわしが食べてしまうぞ」
「……くどいぞ」
全く動かない姉の心に朔は少しだけ残念な気持ちになった。
最初のコメントを投稿しよう!