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(この香りに仕事の効率が落ちるのじゃと。ふむふむ、それは難儀じゃ。……難儀じゃのう。姉上)
長い自分の支配する国までの道のり、朔は人のようにほくそ笑む。
(結局そこにわしを厭(いと)い、羨ましがる心があるではないか。まるで人のように……)
どれだけ完璧であろうと心を封じたところで、そこにあることは変わらない。自身で気づかず、操り人形のように動こうとも、姉にはやはり心がある。
(慶一郎の店を繁盛させることを提案したのはわしであったが、慶一郎の元を訪れ、あの面倒な出雲の会議の場を収めたのは姉上……)
朔はその会議の場で隣に座っていた姉の顔を思いだす。
最高神として、飾り立てられた姉のその真剣な目を。
(確かにあの「うさぎや」は今後、人に必要な場所だ。だが、いつか……)
腕の中のクッキーを大事に大事に抱える。
「心を閉ざした姉上にも必要な場所となるとわしは願うのじゃが……」
それまで自分がせっせと通って顔をつないでおくとしよう。
まぁ実際に味は申し分ない。
姉は慶一郎のいれるコーヒーに惹かれたようだが、朔自身はあの抹茶のアイスクリームの甘さと苦さと冷たさが気に入っている。
あれを食べるとひどく心躍る。……おそらく月の神ではなく、個人としての朔の心だ。
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