見るよりも記憶に残るのは

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見るよりも記憶に残るのは

 秋も深まった昼下がり。ふわりと鼻をかすめた匂いに、私は思わずつられて顔を上げる。  甘い甘い匂いは、最近はすっかりご無沙汰になってしまったが間違いなく秋の風物詩で。私はその香りに誘われて、ふらりふらりと来ていた大通りとは真逆の細い路地裏へと入り込んで行く。  幼い頃はそれこそ少し歩けば目に付く程に咲いていたそれは、時代とともに掃除が大変だとか匂いがきついだとかで次々と数が減って、ここ数年に至っては目にするどころか名前すらも聞かなくなってしまった。 「けど、この匂いは確かに……」  古い街並みと近代的な高速道路が交差する世界は、酷く非現実的で。  そんな変わりゆく街の中でさえ唯一変わらないものに少しばかり頬を緩ませ、私は昔の事を思い出していた。
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