四、夜道と雫

3/7
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
 そうしていよいよの別れ際、ユクリはエニシに言いました。 「エニシよ、子供の時のようにわらわと話してくれた事、感謝する。わらわの話を……惑いもせず困りもせず聞いてくれた事を、深く感謝するぞ」  それにエニシは、「ああ」と頷きます。 「……どうか、元気で」 「そちも、息災でな」  こうして別れを告げたユクリは、ヨスガを伴って山道へと入っていきました。  後ろ髪引かれる思いで振り返ると、そこにはまだエニシが立っており、ユクリを見送っていました。  ユクリが最後にエニシに手を振ろうとしたその時です──。  エニシは、両の手を自分の頭にかざしました。  そしてそれをウサギの耳のように見立て──  ──ゲコゲコ──  そう口を動かしているのが、ユクリにもはっきりと見えました。 「──………」  ユクリは、嬉しさに打ち震えました。  ──エニシは、  エニシは、忘れてなどおらんかったのじゃ──  ユクリもエニシのウサガエルに応えるように、手を頭にかざし、ウサガエルになりました。 「ゲぇコゲぇコ!」  ユクリは、高らかに鳴きました。  それは、二人だけの然様(さよう)ならの代わりになりました。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!