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そうしていよいよの別れ際、ユクリはエニシに言いました。
「エニシよ、子供の時のようにわらわと話してくれた事、感謝する。わらわの話を……惑いもせず困りもせず聞いてくれた事を、深く感謝するぞ」
それにエニシは、「ああ」と頷きます。
「……どうか、元気で」
「そちも、息災でな」
こうして別れを告げたユクリは、ヨスガを伴って山道へと入っていきました。
後ろ髪引かれる思いで振り返ると、そこにはまだエニシが立っており、ユクリを見送っていました。
ユクリが最後にエニシに手を振ろうとしたその時です──。
エニシは、両の手を自分の頭にかざしました。
そしてそれをウサギの耳のように見立て──
──ゲコゲコ──
そう口を動かしているのが、ユクリにもはっきりと見えました。
「──………」
ユクリは、嬉しさに打ち震えました。
──エニシは、
エニシは、忘れてなどおらんかったのじゃ──
ユクリもエニシのウサガエルに応えるように、手を頭にかざし、ウサガエルになりました。
「ゲぇコゲぇコ!」
ユクリは、高らかに鳴きました。
それは、二人だけの然様ならの代わりになりました。
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