四、夜道と雫

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四、夜道と雫

 薄明かりのぼんやり灯る畦道(あぜみち)を、二人は歩きました。  帰路を行く数人の邑人とすれ違いましたが、幸いユクリの正体は明るみになりませんでした。  無事に山道の入り口までたどり着くと──。 「……おお!」  ユクリは前方の人影を見て声をあげました。  そこには提灯(ちょうちん)を持ったヨスガがいました。  ヨスガはユクリたちを見るや安堵の表情を浮かべましたが、訳を知ったようでもありました。  エニシはヨスガに深く頭を下げ、沈痛な面持ちで告げました。 「此度(こたび)は、ユクリ様の玉趾(ぎょくし)()ぐような真似を──」 「いや、待ってたも。ヨスガ、わらわが勝手に館を飛び出しエニシの所へ行ったのじゃ。それをわざわざ送ってくれているエニシに(とが)などあろうか。非はわらわにある」  深謝するエニシと、それを制し仲裁するように割って入るユクリ。  こんな二人の姿に、ヨスガはくすりと笑いました。  二人が幼き頃──よく遊んでいた頃にも、こんな事があったからです。  相も変わらず仲睦(なかむつ)まじいのだと、ヨスガは微笑ましく思いました。 「ユクリ様、私はエニシを咎めたりはしませんよ。──エニシ、ユクリ様を無事に送ってくれた件、(ねぎら)うに値します。我々家中(かちゅう)の者からも感謝を」  ヨスガがユクリとエニシそれぞれに言うと、ユクリは安堵し、エニシはもう一度恭しく頭を下げました。
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