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その空気が耐え難い程の圧力で皆を締め上げた。首から下を鋼鉄でプレスされているような。締め付けられ、臓器がせり上げられ、やがて血液を纏った塊が口から飛び出した。肝臓だろうか、それとも胃だろうか。見るとそこいら中に似たような造形の赤黒い塊が散乱している。やはり皆プレスの圧迫に耐えられなかったのだ。飛び出したばかりの内臓はうねったり小刻みに震えたり床を這ったりして動き回っている。突然体外へと放り出され、何が起きているのか分からず困惑しているようにも見えたし、ただ呑気に遊戯しているようにも見えた。おや、あそこでぴちぴちと跳ね回っている小さいのは、母親の手をしっかりその小さな手で握っていた幼児のそれだろうか。流石に若い内臓は新鮮で活きが良く、水揚されたばかりの鰯のようだった。 「やってみんかい」男はそう言った。ヤッテミンカイ?と僕は思った。言葉の意味を僕はその時理解しかね、ただ頭の中でひたすら反響していた。僕はそれに聞き入った。動き回る内臓を拾い集めることも忘れて。 「やってみんかいって、お前。え?びびっとんのか。そんなおもちゃで俺の命(たま)はとれへんぞ、やれるもんならやらんか。今すぐ、ほら来いや、来いって。ほらほらほーら」 オーケー、分かった。お前だけ撃たれて死ね。 奇遇にも僕と強盗の思考はシンクロしたらしく、引き金が引かれた。強盗は何かを喚いていたが、銃声に消えた。凄まじい音だった。
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