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僕はそれが、腕を撃たれた男の声だと分かった。さっきまで、それもつい何分か前まで強盗相手にあんなにイキっていた男が、死にたくない、痛い痛いと喚いている。暖かい湯の中に、全身がすっぽりと覆われて行くような感覚の中で、確実に意識を失っていきながら僕は本格的に思った。あの男は阿呆なのだろうか?生きている間は誰にも屈したくないし良い恰好もしたいから、現状に抗う、歯向かう、突拍子も無い行動を取る、就職せずギターを持って上京するなどする、イキる、けれど痛い目にあった途端、幼児のように喚き、命乞いする。あの男は阿呆なのか、それともあれが人間らしい、ということなのか。だとしたら、嫌やなあ、すごく。 何にせよこの果てしない阿呆が探偵で、これが僕と、探偵の出会いだった。友人との出会い方として、珍しいと言えば珍しいし、有りがちと言えば有りがちかも知れないし。
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