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だがそのように考えない人だって勿論たくさんいるだろうし、「持つべき物は友、そして人と人との絆やど、ワレ」と仰る方もおられるだろうから、僕はそういう方々に何も自分の生き方こそが真理だ、等と嘯くつもりは全くない。そういう方々も、僕の中では過ぎていくものに過ぎないわけだし、これは世の中の大半の人がそうだと思うが、僕自身、僕と違う考えを誰かに押し付けられたくない。だから僕も押し付けないでおこうと思います、神の子イエス・キリストも聖書の中で、人にしてほしくないことはあなたも人にしてはならないという言葉を残していた、というのはあくまで僕の想像に過ぎないが、そんな風な感じで、真面目で清く正しく、公明正大、威風堂々たる生き方で人生を歩んできた僕だが、どうも夏が来ると後ろめたさを感じた。 一点の曇りも一人の友人も無い僕の人生に、やましいことなんて何もないのだから後ろめたさを感じる必要などどこにもないのだが、夏という季節には、僕を圧迫し追い詰めるような、そんな不安感を煽る不快な感じがあった。 その原因となったのは、平成二十六年の夏にあった。忌々しい夏であった。 それ以降、夏というのは僕にとって後ろめたく、また同時に、強すぎる冷房の風と煙草の煙が漂う中、時代遅れな喫茶店の角の席で二人の友人と頭を突合せていたあの時間を意味した。 平成二十六年夏、僕には二人の友人がいた。 友人の内一人は日本が世界に誇る昭和のスーパースター、松田優作の熱狂的なファンであり、松田優作が既に亡き今という時代に生まれたことを、しばしば嘆いた。僕は彼を探偵と呼んだ。探偵とは七月も半ばを過ぎたある日に出会い、僕たちは丁度銀行強盗に襲われていた。
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