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なので、外貨預金がいかに魅力的かということについて客相手に説いていた僕は強盗が持っていた銃もどうせおもちゃだとすぐに分かったので勿論手をあげたりはせず、間寛平先生のギャグを思い出せる範囲で一つ一つ思い出すなどしつつ、冷静に思考を働かせつつ、決して恐怖のためではなく偶然にも大便と小便を同時に漏らすなどしつつデスクの下に取り付けられた警備会社直通の非常警報ボタンを押そうと手を伸ばすと強盗の顔がこちらを向いた。サングラスをかけていたのでよくわからないが恐らく目があっていた。奴は真っ直ぐにこちらへ歩み寄り、僕の隣にいた女性職員に銃をつきつけた。 「余計なことしなや、この女にバン、やるぞ」強盗ははっきり僕を見て、言った。僕はすかさず、 「なんて酷いことを、腕力の弱き女性を人質にとるなど卑劣の極み、貴様の行為は軽蔑に値する。おい、今すぐその女性から離れろ、汚い手を離せ。そして銃を向けるなら俺に向けろ、このろくでなしの腐れ外道」とは言わず、僕じゃなくて良かったーと思いながら「あ、すません」といって両手を高くあげた。こういった場合は無暗に犯人を刺激せず、また、おかしなヒロイズムを掲げたりせず、言うとおりに従うのが最善なのだ。 「おい、分かったな、全員。何か変な動きしたら、この女の命ないからな、分かったな」 強盗は、制御不可能になったダムの濁流のように涙と鼻汁を流しぶるぶる震えている女性職員の喉あたりに銃の先を向けながら、そう言ってぐるっと店の中を見回した。僕も一緒になって、その視線を追った。強盗がやってきてからその時初めて店内を見たわけだが、一様に両手をあげた人々が超自然的な力によって起こった海流の変動により突如岩場に叩き付けられた深海魚みたいな顔をしていた。異常に水膨れしているように、見えた。     
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