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 十年後の未来のことなんて、誰にも分らない。もしかしたら、誰かと結婚して幸せな家庭を築いているかもしれないし、その逆で独りぼっちの可能性だってある。だけどそんなのは不確定で誰かが見た、昨日の夢の話より退屈だった。どうなるのかわかりもしない未来の為に、今、何をすべきかって話はもっともっと退屈だ。極端な話、一時間後に自分の上にカミナリが落ちてきたら?道路を渡ってる最中に凄いスピードで車が突っ込んできたら?    バーン!   自分の人生を振り返る間もなく死んじゃうだろ?未来なの自分の為に必死で準備したものは、全部自分のものじゃなくなる。金も、保険も、ペーパーホルダーの中でガタガタ揺れるトイレットペーパーも全部。とにかく全部だ。そうしたら、きっとこう思う。    ああ!アレやっときゃよかった!とか、自分じゃない誰かに支払われる保険金の為に保険料なんて払わなきゃよかった!って、天国だか地獄だか、とにかく死んだあと絶対後悔する。ていうか一時間後に死ぬとしたら、今こうして狭くて汚い居酒屋の便所でチンコを咥えて、梶を気持ちよくしてやってたことを一番後悔しそう。 「てっちゃん…めっちゃいい」  そんなの知ってる。見上げた梶は、何にも考えられませんってバカみたいな顔だった。そもそもフェラチオなんか好きじゃない。毛が口に入るし、梶はイクまでやめさせてくれないから、顎は疲れるし舌の裏が攣りそうになる。それに、梶のチンコは舐めたところで、キャンディみたいに甘いわけでも美味いわけでもない。ましてやこっちは興奮もしなけりゃ、勃起もしない。それでも梶が「てっちゃん、ダメ?」って、甘えてくると応じるのは、身長が184センチもあって体重が76キロの細マッチョが可愛いからじゃない。十年来の恋人としての義務だからだ。 「あ…イキそ…」  梶はバカみたいな顔をますますバカにして、そう言うとデカい手で頭を押さえつけた。梶の硬いチンコが気道に蓋をするように、喉の奥を圧迫する。 やばい、息ができない。  梶の太腿をひっかいてみたけど、ヘビーオンスのスキニージーンズは硬すぎて爪すら立たなかった。それなのに、こっちのことはお構いなしに梶はぐいぐいチンコを押し付けてくる。  殺す気かよ。  押し付けられれば押し付けられるほど、喉の奥の筋肉が締まって吐き気が込み上げた。ただ、その吐き気のおかげで、梶はずっと勘違いしてる。喉の奥に性感帯があって、それが刺激されてるから俺も気持ちいいんだって。 「イラマはやられてる方も気持ちいらしいよ」  いつだったか、梶はそう言ってた。  なわけあるか。誰の受け売りだよ。 「てっちゃん…出るぅ…」  梶はバカみたいな声を上げたかと思うと、同意を得ないまま窒息寸前の俺の中にザーメンを発射して、チンコで塞がれた喉の奥で行き場を無くしたそれが、鼻の奥をつんと刺激しながら鼻の穴から流れ出た。  マズい。  梶のザーメンが苦くて不味いのもそうだったけど、何が不味いって食道を逆流してくる嘔吐感だった。梶の手が緩んだ拍子にチンコと口に残ったザーメンを吐き出しながら、便器を跨ぐ梶の股の間に頭を突っ込んだ。その途端、便器にたまった水の中に、バタバタとゲロを吐き出した。 「大丈夫?」  心配そうな梶の声が降ってきて、さっきまで俺を殺そうとしていたデカくてごつい手が背中をさすってくれたけど、うれしいどころか余計に腹がたった。梶があんなことしなきゃ、こうはならなかった。もっと言えば、みんなで楽しく飲んでる最中に、一体何を切っ掛けにそんな気分になるか理解できなかったけど、もよおしたりしなきゃそれで済んだ話だった。  口の中は酸っぱいを通りこして苦かったし、ゲロで跳ね返った便器に溜まってた水が顔にかかって、ほんとは口なんて一ミリもききたい気分じゃなかったけど、一言いわなきゃ気が済まない。 「死ね、バカ」  梶は本当にバカでどうしようもない。二十六にもなって、まだ思春期の盛った高校生みたいにどこでもかしこでもしたがった。今日もそうだ。タバコ買いに行ってくるって席外したと思ったら、スマホに梶からLINEが入った。 「便所来て」  多分、梶じゃない誰かがそれを送ってきたら、なんかあったんじゃないのかって心配するところだけど、相手が梶だから便所に来て欲しい理由は簡単に想像できた。なんせ、盛りの高校生だからだ。こっちが楽しく酔っ払ってることなんて、梶には関係ない。無視してやろうかとも思ったけど、結局、二回目のLINEが来てすぐ、要望通り梶の待つ便所に向かってた。だから、多分、俺もバカでどうしようもない。
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