正夢なんか見ない主義

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  「由佳。これからお前に告白するから、ビンタした後にOKしてくれないか」  ああ、春だな。  私はうんざりしながら礼一の真面目な表情を見返した。  春眠暁を覚えず。  春になると、その暖かな気候が気持ちよくて寝坊をする人が増えるらしい。私はその典型で、今日もまた二時間程遅刻し校門をくぐろうとしていた。  校庭に立ち並ぶ桜はちょうど散り時で、辺りを柔らかな薄紅色で覆っていた。春満開だ。その美しさに見惚れ、私はつい油断していた。  花吹雪の中から松田礼一が何の前触れもなく現れたので、私は飛び上がりそうになった。 「由佳。これからお前をお昼に誘うから、膝蹴りをした後にOKしてくれないか」  こいつ、なんで授業中にこんなところにいるんだ。  そう思ったが、私は考えを改めた。  今は二時間目の終わり。二十分休憩の時間だ。おそらく窓際の席から私が登校してくるのが見えて走ってきたのだろう。優等生である礼一が授業を抜け出すなどあり得ないのだ。  私はうんざりしながら礼一の横を通り過ぎた。 「やだよ。私いつも(はるか)たちと食べてるって言ってるでしょ。一人で食べてよ」 「いいや、それは困る。お前は俺の夢を壊す気か」 「知らんがな」  そう突き放したところで、ぐっと右腕を掴まれた。  眉根を寄せたまま振り返る。しかし、彼の真剣な表情とその手に持つ一枚のプリントを見た瞬間、私の唇は震えた。 「そ、それは……」 「毎年恒例、現国期首テスト用紙(解答付き)だ」  
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