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次の日曜、私たちは都内の水族館へと向かった。
そこは海沿いにあるデートスポットで、家からは少し遠い。私たちは電車を乗り継いで向かった。
その車内で、私はひたすら礼一に声をかけ続けていた。慢性的な寝不足である彼は、座席に座るとうつらうつらと船を漕いでしまう。ともすれば居眠りをしそうなのだ。また夢を見られたら面倒くさい。
礼一の目の下には、いつもよりひどいクマができていた。
「ねえ、昨日何時間寝た?」
「二時間だな」
「もう、そんな無理して勉強するのやめなよ。あんたの頭なら今受験しても東大理3だって合格するって」
礼一には申し訳ないが、彼が眠らないように二時間話しかけ続け、目的の駅に到着した。
その駅周辺は海沿いの観光地で、駅前は噴水や並木道で彩られていた。それらを眺めつつ、受付でチケットを買い、水族館の敷地内に入る。
少し歩くと、東京湾を背にしたガラス張りの水族館が姿を現した。
真っ青な水平線と透明な水族館の建造美に、入る前からうっとりしてしまった。
「わー、きれいな景色! 写真撮ろー」
「この水族館はな、一九九二年三月四日に開館したんだ。水槽は三十五槽で、約五百種類の生物が飼育されている。年間来館者数は毎年都内トップクラスで、主にカップルがターゲットの大人気水族館だ」
「……あ、そう」
エレベーターを降り、中に入る。正面に早速巨大な水槽がお目見えした。
分厚いガラスの向こうに、幻想的な水の空間が広がっている。群れを成す小さな魚たち、エイのような平たい生き物、大きなサメ。そのそれぞれが、私たちの視線など意に返さず優雅に泳いでいる。
天井からゆらゆらと光が舞い降り、魚や岩石に触れては散る。その美しさに、思わずうっとりしてしまった。
「わー、きれいな魚! 写真撮ろー」
「あそこに泳ぐシュモクザメはな、別名ハンマーヘッドシャークというんだ。頭が金槌みたいな形をしているのが名前の由来だ。あの頭の両脇に目がついているので観察してみるといい」
「……あ、そう」
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