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やっぱりこいつの世間話はつまらない。
基本的に礼一の体はウンチクで構成されている。これが、礼一が私以外になかなか知り合いができない原因だ。今をときめく女子高生である私としても、魚の情報よりも、その見た目の美しさや優雅さに共感してほしかった。
でもまあ、目の前の光景がきれいであることには変わりない。
私は水族館を満喫した。
いくつもの水槽を通り過ぎ、お触りコーナーでヒトデをつつき、ペンギンの餌やりを見学した。
そして深海魚エリアに辿り着く。
辺りは静かで、深海のように薄暗い。横を歩く人の顔もよく見えないくらいだ。迷子にならないよう、私は念のため礼一のリュックの端を掴んだ。
するとふと、礼一が振り向き私の手首を掴み返した。
思わず、どきりとする。
「……わ、わー。きれいな魚!」
私は慌てて水槽に近寄った。
きれいと口走ったが、水槽の中にはきれいどころか、なかなかおぞましい生物がいた。ヒモみたいな形をした何かがうごめいている。
「深海魚は、俺たちがよく見る魚とはかけ離れた形状のものが多いな。こいつは目の下に発光器があり、これを使って求愛行動を行うんだ」
その言葉に、私はそっと礼一の顔を盗み見た。水槽の上部にある、魚の説明書きを読ませるための明かりが礼一を照らしている。その顔をつい、まじまじと見てしまった。
……あれ。
礼一の顔って、本当にシュッとしてるんだな……。
「……ふーん」
私はぼんやりとした返事をして、先に進んだ。
なんだか、礼一のウンチクが頭に入ってこなかった。いや、最初から小難しい話は聞いたそばから右から左だったのだが、今は、余計に。
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