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六歳からの選挙権やポイント換金システムも今は、上手くいっているように見えるだけでいずれ、格差や貧富の溝、政権破滅までを少なくとも幼い頃から紀一郎の性格を良く知っている順一は予測していた。
小学生の頃から、綾辻紀一郎が彼の人生において唯一かなわなかった人間こそが袴田順一であり順一の存在が無ければ紀一郎は今現在においてここまで大きな事をやる人間では無かったかも知れない。
自らの官邸で、袴田順一のデータベースを閲覧していた紀一郎は、もう少し刺激的で日本国中が弾け合うようなクレイジーな政策を打ち出そうと頭を捻っていた。少年法で守られていた少年犯罪は、刑法の改正で素顔と実名が公表されるようになり裁判の様子もテレビでモザイク無しで生中継された。紀一郎は、良くも悪くも全ての国民を対等に扱うという姿勢だけは崩さなかった。その点は、ある一定の評価を得ていた。
労働至上主義という政策は、確かに日本国の経済や景気の好循環を促していたが一方で完全競争社会に耐えられなくなり心を病んでしまう子供達や大人達が増えていた事も事実だった。次第にマネー法の綻びが見え始めてきていた。
順一は、紀一郎の掲げたマネー法を始めとする子供じみた政策に嫌気が差し仕事を辞める決意を固める。所得税という形で納税義務を果たしていた順一が、これから非納税者となる事によって犯罪者として収監される日まで国から与えられたリミットは三カ月。失業手当もマネー法によって廃止されていたので順一は収入がない状態で三カ月の間に答えを出す必要があった。
官邸で、自らのパソコンに向かってデータベースのチェックを行っていた紀一郎の携帯電話に着信音が鳴り響いた。画面には袴田順一の名前が表示されていた。
「もしもし?」
やや緊張感のある声で紀一郎は電話に応じた。
「紀一郎、久しぶり。忙しいか?」
順一は、紀一郎とは対照的にリラックスした声で軽く話し出した。
「まぁね。順一、仕事辞めたのか?」
「あぁ、全部分かっちゃうわけね。辞めたよ」
「三カ月後までに就職しないと刑務所行きだぞ。どうするよ?」
「さぁね。適当に見つけるよ」
順一は、少し姿勢を正して本題に入った。
「紀一郎、お前のやっていることは、いずれ破たんするよ」
紀一郎は、少し引きつった笑顔を浮かべた。
「そうかな?いくら賭ける?何の根拠で?」
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