第1章

3/11
前へ
/11ページ
次へ
選挙権は六歳から与えられ、市議や県議員、果ては国会議員の立候補も十二歳から可能となり、十六歳から学生以外の国民全員に納税義務が課せられた。働かない大人であるニートと呼ばれる非納税者は刑法によって犯罪者として裁かれ、収監された。 今からは、到底想像がつかないこんな日本の法改正、社会改正を行ったのは時の総理大臣の「綾辻紀一郎」その人だった。紀一郎は、現役の高校生で十七歳。働くことに何の価値観も充実感も見いだせない「救われない」状態だった日本を変えた男だ。 紀一郎は、インターネットやメディアを有効活用して一躍時の人となる。テロリストによって破壊された国会議事堂やその当時の国政を担う政治家達が次々と不審な死を遂げていた西暦二〇四五年頃に紀一郎の父親である源作が結成した「労民党」が政権を握ってから数年で紀一郎は、源作が築いた独裁政権を受け継ぎ、「働かない人間は死に値する」と銘打って斬新なアイデアで法改正を進めてきた。 ルックスにも恵まれ、優秀な学生だった紀一郎は幼い頃から構想を練っていた政策を自らの権力を駆使して実行して貧弱だった日本を「有能集団」に変えることに成功していた。 もはや、日本中が紀一郎の思想やそのカリスマ性による一挙手一投足に従う国家規模の信仰宗教の様相をを呈していた。 子供達が主に学業の成績によって収入を得て生活の質を高めていく中で大人達もまた、会社内でのポイント制による収入の格差が生じていた。そのスタイルは学校での子供達のシステムとほぼ同じであった。査定によって収入の格差が上下動し、役職の立場であっても仕事の能力の低い人間は、容赦なく減俸されて平社員に落とされた。 これらの教育基本法や労働基準法の管理を行う機関が文部科学省と厚生労働省を紀一郎が統一した文部労働省であり、日本全国の各学校や企業、公務員や政治家なども文部労働省に徹底的に監査されてデータベースとして日本国民全員の個人情報や査定によるレベル分け、ポイント数、能力の優劣を管理されていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加