第1章

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 順一は、紀一郎が政権を取った事はニュースなどで知っていたが特に関心が無かったので「あぁ、そうなの」みたいな感覚でしか受け止めなかった。    順一の元に、文部労働省から通知が届いた。大きな法改正で十七歳の順一にも納税の義務が課せられていたが、それを無視していた為働いて納税しないとあと三カ月で収監されるような内容が記載されていた。  「何だよ、これ?」  順一は、やむなく知り合いの紹介で測量会社のデータ入力の仕事に就く事になった。社会保険制度が廃止になった事でいわゆる給与からの天引きが少なくなったが新しい法改正の元でも所得税は確実に引かれた。税金の使い道は、その殆どが事実上社会で利益をあげていない学生のポイント制による換算システムの給与に充てられた。生活保護や障がい者の職業訓練システムのボーナスにも充てられた。国会議員や総理大臣の給与、宮内庁への税金の使い道は極力抑えられ、会社員の所得税の多くは将来の日本を背負って立つ優秀な子供達への給与に充てられた。  紀一郎が掲げたこの社会保障制度は、一見バランスを崩してしまいそうな不安定な感覚が否めなかったがいずれ社会に巣立っていく子供達や生活困窮者の将来性や、可能性を考えると社会で働く大人達が学生や障がい者に投資をするというイメージでバランスを保ちながら変革し、確実に日本中に浸透していった。  年金制度が廃止されたことで多くの中高年層は生涯現役主義を余儀なくされた。なるべく無駄遣いを減らして貯金をする人々が増えていく中パチンコや競馬などのギャンブルは廃止され、株式などの投資も廃止には至らなかったがリスクを背負ってまでマネーゲームに投資する人は少なくなっていった。地道にコツコツと働く事こそが最大の資産を生み出しポイント制やレベル分けを徹底して行う事で日本社会全体の競争意識を高める紀一郎の政策は、ある意味全うで実力社会への足掛かりとなっていった。  順一は、そうした社会改革に妙な違和感と矛盾を感じて徐々に大きく変わってしまった日本社会の構図をぶち壊そうと考えるようになる。
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