第1章

8/11
前へ
/11ページ
次へ
大学への進学率は、かなり下がっていた。大学や大学院でのポイント制による給与換算システムは一定の功を奏していたが今や小学生から選挙権やありとあらゆる社会的な権利が与えられている状況下で勉学だけで給与が得られるシステムは高校生までで充分な給与を貯めることが出来ていて、勉学によって得られた豊富な知識や能力をいち早く実社会で積み上げた方が社会的、経済的成功が近い事に多くの学生が気付き始めていた。 時の総理大臣で、現役の高校生だった紀一郎は高校卒業後大学には進学せず新たな政策を模索し始める。小学生からの競争実力社会を実現した紀一郎は、風俗や水商売で働く女性たちを風営法改正によって生活保護やホームレス、障害者たちと同じ施設で高度な職業訓練を施し、一般社会で充分通用するスキルとチャンスを身に付けさせる試みを始めた。 ソープやヘルスなどの風俗店の廃止。キャバクラやガールズバーの廃止。本人の努力と頑張りしだいで学歴など無くても実力で男性社会人の年収を超える事も可能とする政策を進めて、まるで日本中から今までは闇の世界、下衆な世界と捉えられていた人達を救済するようなシステムを推進した。 順一は、データ入力の仕事を日々淡々とこなしながらポイントを積み重ねてレベルはシルバーまで上がっていた。基本的なレベル分けのシステムは一番下がアルミニウム、その上にブロンド、シルバー、ゴールド、プラチナの五段階だったが順一にとってそれは、どうでもいい様なシステムだった。 「単純なデータ入力の仕事でレベル分けも何もねぇだろうに」 やや、不貞腐れながら順一は今の紀一郎が作り上げた労働至上主義なるものを次第に疑問視するようになっていく。格差や不平等は社会において必然でそれを無理矢理法律で平等或いは対等に競わせる事自体、順一には理解できなかった。 十九歳になった順一には、雅代という彼女が出来ていた。雅代は大手の印刷会社で一般事務の仕事をしていた。ここでの彼女の評価は、ゴールドで月収は平均で八十万円ぐらいあった。雅代は、紀一郎の政策を気に入っている様子だった。確かに大手とは言え印刷会社の一般事務で月平均八十万円稼げる人は少なかったし、それを実現させてくれた紀一郎の政策は彼女にとっては願ったり叶ったりだったろう。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加