第1章

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 今日子は、背筋をしっかりと伸ばして、JR津田沼駅に向かって歩き出した。  ふと、駅に向かう途中で、今日子は、感じの良さそうなBARを見つけて、吸い込まれるように、入店した。 「いらっしゃいませ!」  バーテンダーが、この日最初の客である今日子に、優しく微笑んだ。  今日子も、静かに微笑みを返した。 「何か、お作りしましょうか?」  バーテンダーは。優しい声で、カウンター席に座った今日子に、話しかけた。 「何か、そうねぇ……気分が、スッキリするカクテルをください……」  今日子は、カクテルの知識なんて何も無かったけど、お酒は、好きだった。 「かしこまりました……」  バーテンダーは、シェイカーを使って手際よく、透明色のカクテルを作って、今日子に、差し出した。 「ありがとう。これは……?」 「カミカゼ……というカクテルになります……」 「カミカゼ……」  今日子は、少し変わった名前のそのカクテルを、一口、飲んでみた。 「おいしい……」 「あっ!」  今日子が、何かを思い出したように声を出した。 「どうなさいましたか?」  バーテンダーは、相変わらず優しい顔と声で、今日子に尋ねた。 「あっ、いえ……ちょっと……」   酔いが回ってきた今日子は、珍しく饒舌(じょうぜつ)にバーテンダーを相手に、話を続けていた。 「そうでしたか……あの交差点で、そんな事が……」  バーテンダーは、今日子から、カズオの話をされて、少し、沈黙してしまった。 「あの、失礼な言い方になりますが……」  バーテンダーが、急に思い立ったように今日子に、語りかけた。 「はい……?」  今日子は、真っ直ぐにバーテンダーを見つめた。 「その、カズオ……さんですか……まさに、カミカゼ……でしたね……」  バーテンダーが、申し訳なさそうに静かに、そう言った。 「カミカゼ……」  今日子は、あの日のカズオが、英語でいう「KAMIKAZE」だったとバーテンダーに説明された。 「自らの危険を冒して、あなたを守って下さったのですよ……」  バーテンダーは、今日子にそう言って、また、優しい微笑を浮かべた。 「カミカゼ……KAMIKAZE……」  今日子は、笑顔で、バーテンダーに頭を下げた。 「また、来てもいいですか?」  帰り際、今日子は、バーテンダーにそう尋ねてみた。 「もちろんです。また、お話聞かせてください……」
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