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◆ ◆ ◆ 二十年前~中学卒業式の日の朝 ~◆ ◆ ◆
二十年前……
中学卒業式の日の朝。
眠りから覚めた由美は、ベッドの上で呟いた。
「どうして、あんな夢を見たんだろう……」
夢の中では、自分が密かに想っていた地味な男子……
和馬が、彼の幼馴染の瑠里子と結婚式を挙げていたのだ。
「でも……」
由美は少し寂しそうに呟いた。
「和馬くん、すごく幸せそうだったなぁ……」
由美は薄々、和馬の気持ちには気付いていた。
だから、もしかしたら、今日……という期待もしていた。
でも……
幼い頃からずっと一緒にいたという和馬と瑠里子。
瑠里子はいつも和馬のお世話を焼いて、和馬もまんざらではない笑顔を浮かべて。
二人の間に、自分には入り込めない、深い絆も感じていたのだった。
由美は、また結婚式の夢を思い出した。
「私……和馬くんを、あんなに幸せそうに笑わせることができるかなぁ」
所詮は夢。
でも……それはやけに鮮明で、和馬はとろけそうなほどに幸せそうな笑顔を浮かべていた。
由美にはそれが、どうしてもただの夢とは思えなかった。
和馬を本当に幸せにできる人。
それは、きっと、自分ではなくて……。
「由美! 何してるの、遅刻するわよ!」
「はーい、お母さん。今すぐ、降りるわ!」
今日、もしも……
もし、和馬から気持ちを打ち明けられることがあったとしても。
和馬の幸せを想って、自分は身を引こう。
二十年前……
中学卒業式の日の朝。
由美はそんな想いを胸に、切ない気持ちで家を出たのだった。
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