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◇
「和馬、瑠里子ちゃんが迎えに来てるわよ!」
母の声がした。
どういうことだ?
今日迎えに来る訳がない。
不思議に思い、二階の自分の部屋から階段を降りた。
「あんた、まだ制服に着替えてないの?卒業式の日くらい、ちゃんとしなさい」
卒業式?
何を言っているんだ、母は?
全く理解出来ずに居間の鏡を見てみると、飛び上がるほどびっくりした。
鏡の中の自分は、髭の剃り跡もなく幼かった。
伸びすぎた前髪が眼鏡にまでかかり、どことなく暗い少年。
紛れもなく、中学生の僕だ。
玄関から少女が入ってきた。
冬用のセーラー服を着て眼鏡をかけた、見覚えのある顔。
まさか……瑠里子?
「和馬、早く着替えて。遅刻するわ」
「ごめんなさいね、瑠里子ちゃん」
母は眉間に皺を寄せ、瑠里子に手を合わせた。
「いえ、いいんです」
瑠里子は僕にカッターシャツと学ランを着せ、鞄を持たせて中学への道を手を引いて早歩きした。
「まったく、勉強はできるのにその他のことはダメなんだから」
ブツブツ言う瑠里子に引っ張られている僕は、まだ状況が理解できていない。
ただ、五年前に潰れたお好み焼き屋、新しいマンションが建っているはずの公園を通りすぎると、僕の中であり得ないはずの仮説が立ち始めた。
瑠里子に引っ張られて中学校に着き、体育館へ向かう頃になってそれは確信へと変わった。
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