空白の一日

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「中学校の卒業式の日に、タイムスリップしたんだ」 でも、本当に? あり得ない出来事を信じることができなかった。 しかし、今、目の前で起こっているのは、確かに自分の記憶からすっぽり抜けていた、中学校の卒業式。 とすると…… 僕は辺りを見回した。 ……当然、あのコもいるはずだ。 卒業式の列の中を探す。 ……見つけた! 流れるような髪に、長い睫毛の綺麗な女子。 由美ちゃんだ。 僕は、ドキドキし顔が火照っていくのが分かった。 胸の高鳴りがおさまらないまま、卒業式が終わる。 僕は恐る恐る彼女に声をかけた。 「今日……この後、校舎裏に来て」 彼女は僕を見つめて、少し眉を下げて頷いた。 放課後。 僕は校舎裏……蕾のままの桜の木の下にいた。 結果は分かっている。 しかし……どうしても僕は、中学生以来の心残りを晴らしたかった。 由美ちゃんが来た。 やはり綺麗な眉は下がっている。 僕は彼女を真っ直ぐ見つめた。 「僕、中学校に入って初めて見た時からずっと、由美ちゃんのことが好きでした。由美ちゃんがいたから、勉強も苦手なスポーツも、頑張ることができた。もしよければ……付き合って下さい」 由美ちゃんはさらに眉を下げ、目をグッと細めてすまなさそうな顔をした。 やっぱり……。 僕は、その表情で彼女の想いを理解した。 「ごめんなさい。私、和馬くんの気持ちには応えられない。他に、好きな人がいるの」 長い間、心に引っ掛かっていたものが外れた気がした。 「あなたには、あなたをちゃんと見てくれている人がいる。その人のことを、大事にしてあげて」 微笑みながらも、すまなさそうな顔をして由美ちゃんは去って行った。 「やっぱりな……」 結果は分かっていたとはいえ、少し気が沈んだ。 「残念だったね」 ふと後ろを向くと、瑠里子がいた。 きまりが悪そうに舌を出す。 「ごめん。つい、見てしまってて」 そして、眼鏡ケースを渡しながら言った。 「このフレームを見つけて……和馬に似合うと思ったの。ねぇ。私じゃ……ダメかな?」 瑠里子は眼鏡の奥で頬を赤らめていて……可愛い、と思った。 でも、眼鏡を外したらもっと可愛いのに。
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