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大学に進学してから、私とセイヤは本当に付き合い始める。もちろん、別々のアパートに住んでいたが、直にセイヤに押されるままに半同棲のようになっていた。
最初の頃は、長期の休みにはそれなりの期間、実家にも帰っていた。
でも、ユッキに連絡をすることは無かった。
再び会えるような別れ方では無かったし、会える立場では無いとは私だって自覚ぐらいはしていた。当たり前だけど。
だけど、その時も頭の中はいつもユッキで一杯だった。
そのくせ色々と用事を見つけては、それを大義名分にしてユッキの家の前を素通りをしてみたり、ユッキの行きそうな場所に出かけてみたりもした。偶然を期待して。
しかし、それも空しくなり、次第に実家に滞在する期間自体も短くなって行った。
私はユッキを忘れることを心掛けようとし始めていた。
でも、そんな私の本心は、セイヤにはずっと気づかれていた。
大学3年の夏休みも終わったある日のことである。セイヤと初めてのケンカをしてしまった。そして、それが切っ掛けとなりセイヤとは別れてしまったのだ。
セイヤが後輩の女の子のところに泊まりに行ってるのを、私は人伝に聞いてしまったのである。
私の冷めた言葉に、セイヤは怒り口調でこう言った。
「おまえ、今でもユッキが忘れられないんだろ。ずっと、分かってたよ」
怒るのはこっちの方なのに、私は何も言えなかった。
その通りだった。
大正解だった。
ユッキを忘れることを心掛けていたつもりでいたけれど、実際は、想い出と言う心の箱に大切に保管しようとしていただけだった。
蓋の閉まらない箱の中に。
開けっ放しの箱の中に。
いつ飛び出してもおかしくない箱の中に。
出て来ることを期待しながら・・・。
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