第1章

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 とっさに生まれたその同意には、私たちに密かにある「人生の結末を気楽なものにしたい」という願望が、初めから滲んでいたように思う。私たちは二人して笑っているだけで、何となく、私たちの人生の結末を気楽にし合っているような気がした。何も可笑しいことがなくても、まるで不安を払拭し合うみたいに、私たちはよく連れ立って笑った。  担任に冗談だと思われ、あきちゃんには「その気持ち分かるよ」と言われる医学部という進路に、私は自分の成績では到底届かないことは分かっていて、努力する準備をしようとしていた。二年になると予備校のチラシが家に届くようになり、お母さんはそれらをまとめて私の机の上に置く。私は半ばそれを彼女に対する義務のように感じ、カラフルなチラシの封を切っていった。夏期講習、という文字を見てお母さんに金額をみせると、母子家庭では出せるお金は限られたものだという、ごく当然の説教をされた。  それで私はアルバイトをすることにした。いくらかかるのか、計算してみたら三年から通うためのお金を集めるには、二年の夏からバイトをしなくてはとても間に合わないと分かった。高校では校則でバイトは禁止されていたから、もし先生の誰かに見つかったら、真面目にこの計算のことを言おうと思った。ただやみくもに違反しているんじゃない、私は、急がないと間に合わないのだ、自分が希望する将来に。
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