第1章

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 私がこのおじさんと交際するようになってから、あきちゃんとの関係は微妙なものになった。もともと劣等生グループのなかで結んだ友情だったと思うし、努力を始めた私のことを恨めしく感じていたことも知っていたので、私はもし彼女に、堕落したなどと詰られるのなら、それは不思議なことであるように感じた。逆に、もし彼女が私の交際を喝采して迎えるなら、その先彼女との友情をどう続けてゆけばいいか、それが見えるような気がした。  またおじさんとの交際で、私は自分の年齢では発見しなかった寂しさや、人生の厚みというものを感じることに慣れ、自分はまだ若いのになどと、自分の年齢をその考えから切り離そうとする努力を次第に忘れた。私にとって若さは、それが幼さだったときから、生まれたままの私の性質に合わず、つねに私の前に立ちはだかるものだった。  生まれてから初めのうちは、誰にでも確かにまだ若さがあるはずなのに、私は名前の最初の文字に漢字が付いていないように、初めから若さを剥奪されているような感じがしていた。まだ高校生で、生まれてから一度も、若さというものから一歩も出たことがないはずなのに。おじさんの子供とほんの何歳しか違わず、娘であってもおかしくない年齢だったというのに。 「えりちゃん、すごい馬鹿だよ」  あきちゃんは私に向かって知れきったことを言った。私は知ってる、と言った。 「だから少しでも馬鹿じゃなくなろーとして、頑張ってるとこ」と、ちょっと喧嘩売るようなことを言ったら、やっぱりと思ったけれどきつく睨まれた。  いつもどおり川べりにいて喫煙しているときに彼女が来て、そのまま煙草を吸いながら話していたけれど、前からの習慣だと知ってるはずだというのに、それすら「村上さんが吸うから吸ってるの」などと訊いてきて、どうしてあきちゃんは私の気に入らない部分を、出来る限り太らせようとするんだ、まるで家畜みたいにそうでないと困るみたいじゃないか、と言えない言葉として心のなかで呟いた。むかついたことを表明しようとして、わざと嫌がらせで、 「あき帆も吸う?」と吸殻を反対にして差し向けたら、彼女は呪いから顔をそむけるみたいに、要らないとか言い、何故か煙草なのに、 「ヤク中め、」とか言った。
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