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散歩
私はいつもの様に、リードの先に“Kenta”を従えて散歩をしていた。すると、1本目の伝言柱に、私の名前が記してあるのに気づいて立ち止まった。しかし、“Kenta”はいつものごとく自分の前足の“sumaho”ばかりを見ていて、私が止まっている事に気づかないので、私はやがて迫り来る衝撃に備えて踏ん張らなければならなかった。
(はうっ!)
私の首は、瞬間的に増した、リードの張力に打ち勝ち、引き続き位置を保たせる事で、私の欲しい情報を収集する事が出来る。“Kenta”は一瞬私の方を見たが、また“sumaho”に視線を戻し、少しだけ私を待つ事にしたようだ。
[ドロシーよりスコットへ愛を込めて]
2017/05/11,08:50
《ごめんなさい。私の時の中で、いつ迄も貴方がそばに居てくれると思って安心し過ぎてた。ただちょっと今流行りのツンデレを試してみたかったの。もうしないから戻って来て、お願い。今日は満月。リングを外してやって来て。あ、デビッドが来たわ。じゃぁ、またね。》
彼女の伝言が本当だとすると(女は小悪魔だから真意は私には判別出来ないが)私は惨めな男ではなく、取り敢えず、見込みある男という事になる。
(やったー!)
“Kenta”が再び私を一瞥したので、制限時間一杯の様だ。しかし、この後のデビッドの伝言が気になる。
[デビッドからスコットへ憎しみを込めて」
2017/05/11,08:52
《てんめ、フザケンナ。ドロシーとは有りえん言うとったやんけー。今度会ったらぶっころーす。》
(マジかい!)
私は“Kenta”に激しく引きずられ、この場を諦める他は無かった。それにしても、デビッドを本気で怒らせたのは不味い。奴は私がドロシーと別れたのを知って、私に、
「俺がアタックするから縁を戻そうなんて考えるんじゃねーぞ」と言うので、私は、
「私は振られたんだから、もう有りえないよ」と言ってしまっていた。
奴の体は私の倍ほどもあって、体は黒く、巷では【ブラックパンサー】の異名を持つ猛獣の様な奴である。
それから散歩が終わるまで、いつもはノロノロ歩く“Kenta”を引っ張っていく私が、もの影に怯えてはトロトロ歩くものだから、“Kenta”に何度も引っ張られながら歩く事になり、だんだん恐ろしさが増して来たので早々に城へ引き返した。
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