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皺をより深くして微笑みながら老女は手を差し伸べてくれた。わたしは銀色の暖かい日向に当てられたように身体が弛緩し、その手をゆっくりと握り返した。
「すみません。うちの子が!」
母がぱたぱたと慌てた様子で追いついたときには、わたしは立ち上がっていた。
「本当に―」
母は立て続けに謝ろうとしたが、途中で言葉につかえてしまった。母を見上げるとその老女を凝視して固まっていた。老女は慈愛の視線を母に送った。
「いえいえ、私は何ともないですよ」
それからわたしと視線の高さを合わせるようにしゃがんだ。
「それよりもお嬢さん、転んだのに泣かなかったの偉かったわね」
「本当に申し訳ございません、賢者様!」
突然母が大きな声で謝罪した。けんじゃさま。わたしは状況が飲み込めていなかった。母が必死さを滲ませながら頭を下げていることに狼狽した。
「そんな止めてください。私は大したものではないですよ」
けんじゃと呼ばれた老女はにっこり微笑みながら立ち上がり、母に向き合った。
「お気に病まないで下さい。役職の偉さなんて子どもの前では必要ないものですから」
そう言いながら老女は頭を下げている母の肩を抱き起こした。
「おばあちゃんて、えらいひとなの?」
そんな状況でこのような発言をすべきではない等という判断は、その時のわたしにはとてもできなかった。
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