9人が本棚に入れています
本棚に追加
老女は微笑みを絶やさずにわたしの方に向き直った。
「いいえ、大したものではないですよ」
「じゃあさ、あれはしらないの?なんでまものってたいじしなきゃいけない、ていうの」
一瞬にして母の顔から血の気が引いた。母は強くわたしを引っ張り寄せた。そして庇うように強く抱き締めた。
「本当に申し訳ございません、賢者様!この子はまだよく分かっていないのです!帰ってよく言い聞かせるので、どうかお許しください!」
抱き寄せられ過ぎて母の表情はよく分からなかった。しかし、老女を見やると仰天した様子で目を強張らせていた。そして突然わたしの頭の上に掌を乗せた。母の抱き締める力が一層強くなる。母は震えていた。背中から伝わるその震えは、しかし先程感じた震えとは全く別のものに思われた。老女は強張らせた目のままでわたしの足先から頭まで視線を走らせた。
「驚いた。この子、魔法の才能がとんでもないのね」
そう言った老女の目からは強張りがほぐれ、先程までの慈愛を湛えさせた。
「お母さん、怖がらせてしまったのなら謝ります。ごねんなさい。そんなに怯えないで下さい。こんな可愛らしい質問だけで取って食べたりはしませんよ」
老女はそう言って母に微笑んだ。母の力が少し緩んだ。
最初のコメントを投稿しよう!