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「お許し下さいまして、ありがとうございます。本当に感謝のしようもありません」
母はわたしを抱き締めたまま頭を下げるという離れ業をしてみせた。しかしまだ母の震えは治まらない。頭の上から鼻をすする音がした。
「そんな恐縮なさらないで。でもお母さん、この子の才能は本物ですよ。この子の周りのマナがとてもよく澄んでいる。こんな才能はそうそう見られるものではありません。それにこの純粋な思考。これほどの逸材は今まで出逢ったことがありませんわ。そうね、通俗的に言うのなら100年に一人の逸材、とでも言いましょうか」
「そのようにお誉めいただきありがとうございます。しかし、私も夫も"一般人"で魔法とは無縁で過ごして参りました。そのようなことがあるのでしょうか」
「極稀にしか見られないことですが、決してあり得ないことはないのですよ。確かに魔法と遺伝子の相関は多くの研究者が証明するところです。しかしこの子のように、突然変異ともいうべき現象も実際に報告例があるのです」
母は抱き締める力を緩め、わたしをその身体から離した。そしてわたしをくるりと回して向かい合わせた。母の目は赤かった。その目でわたしをじっと見つめた。
「…ごめんなさい」
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