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わたしはとても居たたまれなくなり、視線と一緒にぼそっと言葉を落とした。
「お母さん、この子を私に預けてくださいませんか」
母がばっと視線を上げた。わたしの右腕をぎゅっと握りしめた。母にまた緊張が走ったようだった。
「こんなことの後でとても不安がられているかもしれませんが、私はこの子を弟子に迎えたいと思っています。こんな逸材を見つけてしまった以上、見逃すわけには参りません。ご不満があればいつでもお迎えに来ていただいて構いません」
わたしを握り締める力が弱まってくる。
「しかし私はこの子を立派な賢者にしてみせます。だからどうか、預けていただけませんか」
しばらく沈黙が場を支配した。風の音と遠くから届く川のせせらぎがするだけだった。
「…夫と一度相談させていただいてもよろしいですか」
「ええ、勿論ですとも。いつでもご連絡下さって構いません。お待ちしてますね」
そう言うと老女は懐から銀色のケースを取り出し、その中から出した紙を母に手渡した。
どうやら良くない状況は逸したようだぞ。幼いわたしは何となくの雰囲気でそう察した。
「おばあちゃん、さっきのクイズ、こたえわかった?」
母はまた目を強張らせ、息を洩らした。溢れた溜め息には疲れが滲んでいた。
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