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あいつだ。あいつが私を…!憎悪が一瞬で沸き上がる。今すぐあの女を!突き動かされそうになる私を、杭が、綱が、痛みが阻んでくる。私が身体を動かす度に、木の台はぎしぎしと軋み、私の痛みを増幅させた。
その時、野次馬の塊に変化が起きた。人だかりが割れていく。そしてその断面からふいに神父様が沸いて出てきた。神父様。我らが父にその身を捧げた正しき人。神父様ならきっと…。
「フランソワーズ・ローズ、これが最後の問いだ。他の魔女の名を示しなさい」
神父様の口から出た言葉。それは私を絶望させるのに充分すぎるものだった。
「私は…魔女じゃありません…」
何とか絞り出した声は、掠れて弱々しく震えていた。
「そうか。…残念だ」
神父が一歩退いた。途端に2つに割れていた人だかりから、神父の両脇に松明を持った男が二人ぬっと出てきた。そのお面のような顔からは感情が読み取れない。あの火はいつから灯していたのだろう。まるで人だかりという1つの肉団子から今まさに生まれ出たようにさえ見えた。
2つの松明が木の台に近づいてくる。台の下には小枝が山積みにされていた。魔女かどうかは焼けば分かる、と聞いたことがある。火刑に処して生きていれば、それは魔女だと。
「違う…。私は…魔女じゃない」
掠れた声が洩れた。近づいてくる男二人を、死の気配を私の全身が拒絶する。
ああ、我らが父よ。どうか、どうか私を。
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