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「申し訳ありません」
隣の部屋からはひたすら謝る母親の声が漏れ聞こえてきていた。わたしはその声の方に顔を向けたが、やがて手元の絵本に視線を戻した。大きく描かれた絵を手でなぞるようにする。文字はまだ読めない。だから誰かに読んでもらう必要があった。
「―これは絵本ではありますが、世界史として重要な部分でもあるのです。それは信仰にもより深い理解を与えるものです。それなのに明日香ちゃんは、どうして魔物を退治してはいけないのか、なんて。確かにもう魔物は絶滅していますが、それでも…。失礼ですが、御宅では一体どのような教育を―」
保育士の苛立った声が聞こえ、わたしはまた隣室の方を見やった。
さっきの質問が何かいけないことだったのだろうか。話している内容は全く分からなかったが、それでも自分のせいで自分の母親が怒られているのだということくらいは想像できた。
しかし何がいけなかったのだろう。今日の午前中にはおけらだってミミズだって友達なのだと、お歌の時間に声を大にして主張していたのだ。魔物だけのけ者にする理由が単純に分からなかった。そう言うと先生は、顔が恐ろしいからだと言ったのだった。
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