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やがて母が引き戸が開き、わたしだけがちょこんといるだけの教室に入ってきた。母の顔を見上げる。わたしの目には既に涙がたまっていた。しかしそんなわたしに母は柔らかく微笑みを返して言った。
「帰ろっか」
荒川の土手を通る帰り道、母は一度もわたしを怒らなかった。むしろみんなの前で堂々と質問したわたしを褒めてくれた。
「お母さんもね、昔その事がずーっと気になってたの。でも質問できなかった。勇気がなかったのね。だから明日香がそうやって質問できたことは凄いことだと、お母さんは思うな」
そんな風に褒められてしまうと、こちらとしても有頂天に成らざるを得ない。わたしはさっきまでの反省はどこへやら、得意になって話し始めた。
「じゃあおかあさん、どうしてまものはたいじしなきゃいけないか、おしえてあげるね」
「え、何でか分かったの?」
「うん!さっきね、せんせいがおしえてくれたんだよ。えっとね、おかおがこわいからだって」
「えー、そんなことでー?」
「うん!だからね、アスカもね、せんせいのおかおもこわいよっておしえてあげたの」
すると母は噴き出した。繋いだ右手から伝わる震えから母の愉快気な様子だけは分かって、何だか分からないけど嬉しくなった。
「ごめんごめん、それは明日香も失礼なことを言ったわね」
わたしは途端に心配になる。
「…だめだった?」
「そうね、良くなかったわね。でも…」
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