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「話を聞いてくれ」
振り返って睨み付ける。
「話なんかない」
「俺はある。少しでいいから話を……」
藤野の胸の中の怒りの炎がぶわっと大きくなった。ぎりっと奥歯を噛みしめる。
「どうせ……嘘ばっかりなんだろ」
頭の中は煮えたぎっているのに、零れ出た言葉は氷のように冷たかった。
志賀が言葉に詰まる。
その腕を振り払って、藤野は志賀に背を向けて歩き出した。
怒りの炎が渦を巻く。志賀の声なんか聞きたくもない。
――信じろって、なにを信じるんだよ。何が本当で、どれが嘘なんだよ……!
全身で信じて縋った相手に裏切られて、藤野はもう怒りに身をまかせるしかなかった。
怒りを弱めれば、その隙間に絶望と悲しみが入り込んでくることが分かっていたから。
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藤野は企画開発室で孤立した。
それはそうだろうと藤野自身も思う。
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