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志賀のキスや愛撫、睦みあった一時の幸福感をまざまざと思い出す。
自分のいた場所に北里の顔を当てはめた途端、ざわっと鳥肌が立った。
すっと血の気が下がる。
一瞬、いやだと思った。
そして同時に、そう思ってしまった自分に動揺する。
はいそれが答え、と横井が立ち上がる。
「藤野さんてほんと損な性格だよね。一個先に行ってから振り返らないと自分すら見えないなんて、これまでの人生かなりいろいろ損してきたんじゃないの?」
空になった紙コップをするりと藤野の手から抜いて、横井は立ち上がる。
「――勝手なこと……っ」
思わず立ち上がりかけた藤野ににやりと笑い、ひらひらと手を振って横井は休憩室を出て行く。
藤野はその後ろ姿を睨み付ける。動悸が早い。知らん振りをしていた心の奥の気持ちが頭をもたげる予感がした。
横井の置き土産のタバコの煙が藤野を取り巻いた。
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