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アパートに帰るのが嫌だった。
北里の気持ちを知り、志賀に対する自分の気持ちに気づいてしまって、怒りが別の気持ちにすりかわっていくのが分かった。
北里の声を聞くのも嫌だ。
だけど、それは今までのような単純な怒りではなかった。
もっと生々しくて、熱くて、醜い。
北里の言葉に混ざっている志賀に対する気持ちを厭らしいと感じてしまう。
藤野はふと立ち止まる。苛立ち混じりにアスファルトを睨みつける。
昨日までは、志賀の声を聞くのも嫌だった。名前を耳にすることすら腹が立った。姿を見ると、怒りで全身が沸騰しそうになった。
だけど、もし今、声を聞かされたなら、別の感情を抱いてしまうかもしれない。
そう思ってしまう自分が嫌だった。
横井に掘り返されそうになった、自分でも気づいていなかった心の底の想いが首をもたげそうになるのを、ぐっと押さえつける。
――考えるな……!
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