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「志賀さん、あんたが無視し始めてからぼろぼろなんだよ。俺がどうフォローしたって、ぜんぜん駄目で。……あんたがいいんだって。あんたじゃなくちゃ駄目なんだって」
声を絞り出すようにして北里は言った。声が震えている。
いきなり喉に冷たい指が触れて、藤野のはぎくりとした。
「ねえ、うちの会社やめてくれない? そうしたら志賀さんもあきらめるでしょ」
「――俺がやめたら、志賀にだってペナルティがかかる」
睨みあげれば、北里は目を細めて皮肉げに笑った。
「じゃあ、消えてよ。暴漢に殺されたんだったら、それは誰のせいにもできないでしょ」
信じられない言葉に一瞬耳を疑う。
だけど、目の前の北里の瞳に宿る冷気が目に入った途端、ぞわりと全身が震えた。やばいと本能的に思う。
――だめだ。逃げろ。
だが、その間もなく、喉に掛かった北里の指に一気に力がかかる。逃げ道を失った空気が喉の奥で音を立てた。
「――きた……」
息ができない。
藤野は北里の手首を掴み、必死で剥がそうとする。
だけど、それは石のように硬く力がこもっていてびくともしない。
――やばい……。本気だ。
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