◆◇◇◇◇

5/20
前へ
/142ページ
次へ
「志賀さん、あんたが無視し始めてからぼろぼろなんだよ。俺がどうフォローしたって、ぜんぜん駄目で。……あんたがいいんだって。あんたじゃなくちゃ駄目なんだって」  声を絞り出すようにして北里は言った。声が震えている。  いきなり喉に冷たい指が触れて、藤野のはぎくりとした。 「ねえ、うちの会社やめてくれない? そうしたら志賀さんもあきらめるでしょ」 「――俺がやめたら、志賀にだってペナルティがかかる」  睨みあげれば、北里は目を細めて皮肉げに笑った。 「じゃあ、消えてよ。暴漢に殺されたんだったら、それは誰のせいにもできないでしょ」  信じられない言葉に一瞬耳を疑う。  だけど、目の前の北里の瞳に宿る冷気が目に入った途端、ぞわりと全身が震えた。やばいと本能的に思う。  ――だめだ。逃げろ。  だが、その間もなく、喉に掛かった北里の指に一気に力がかかる。逃げ道を失った空気が喉の奥で音を立てた。 「――きた……」  息ができない。  藤野は北里の手首を掴み、必死で剥がそうとする。  だけど、それは石のように硬く力がこもっていてびくともしない。  ――やばい……。本気だ。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

203人が本棚に入れています
本棚に追加