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「――横、井」
ぱん、と派手な音がして北里の声が止まる。
横井が北里の頬を張ったのだ
「いいかげんにしろ」
冷静な横井の声が一瞬静かになった部屋に響いた。
「そんなことしてどうなる。よく考えろ」
「……犬の癖に」
一瞬の沈黙のあとに憎々しげにつぶやいたのは北里だった。頬を押さえて唇を噛むのが見えた。
「ああ犬だよ」
飄々と答えて、横井は腰をかがめて北里の顔を覗き込む。
「だけど、駄犬だけでなくて、時には忠犬でもありたいとおもってるわけさ。ご主人様が道を踏み外しそうなときなんかはね」
「生意気なことを……!」
言いかけた北里を、横井がひょいと肩に抱えあげる。
「放せよ! おろせ横井!」
「却下」
藤野は目の前の出来事に呆気に取られていた。
横井が突然現れたことにも驚いたが、細いとはいえしっかりと重いはずの北里をひょいと抱き上げる横井にも驚かされていた。
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