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呆気に取られて動けずにいる藤野に、横井は片目を閉じてにやりと笑う。
「というわけで、藤野さん。こいつは連れて帰ります。ご迷惑かけてすみませんでした。詳細はまた後日」
「おろせ、横井!」
「きかねーっつってるだろうが」
暴れる北里を、器用にバランスを取って肩に担ぎ上げたまま、横井は部屋を出て行く。
北里だって軽くはない。横井の体格は細い割りに筋肉質でがっしりしているとは思っていたけど、こんなことができるようだったら、自分なんて何をどうしても力では敵いようがなかったんだと今更ながら思い知る。
「放せよっ」
「放さねえって言ってるだろ」
言い争う声と足音が遠ざかって、部屋に静けさが戻る。
異様に早い自分の心臓の音だけが、耳の中に木霊していた。
乱れた床に呆然と座り込んだまま、藤野は玄関を見つめていた。
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