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どうしていいかわからなくて、藤野は唇を噛んで頭を振った。
ふと自分の手の指が視界に入り、目が離せなくなる。
人差し指と中指の爪の先に血がついていた。
北里の手を引っかいたときについたのだろう。
きっと、北里の手の甲か指には、派手な引っかき傷がついているのだろう。
多分それは、ずきずきと痛い。
たっぷり数分指先を見つめたあと、藤野はのろのろと腰を上げた。
――行かなくちゃ。
奥歯を噛み締める。
志賀に会わなくちゃいけないと思った。
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「藤野?」
直接アパートを訪れた藤野に、志賀は動揺した声を聞かせた。
明らかに戸惑った様子でドアを支える志賀の脇を抜けて、藤野は黙って玄関に入る。
背後でドアが閉まるのを待って、藤野は志賀を見上げた。
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