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志賀は戸惑った顔を隠せていない。
ずっと自分を避けていた藤野が突然訪れれば突然だろう。
しかも、藤野は一言も話さず黙ったままでいるのだ。
藤野は、志賀を睨みつけたまま、ぐっと両手を握りしめた。
「……殴りに来た」
「え?」
聞き返した志賀の前で大きく右腕を振りかぶる。
目の前の頬を、藤野は目一杯力を込めて握りこぶしで殴った。
「――いった……」
不意打ちをくらった志賀がよろめく。
「今のは俺のぶん」
ずきずきと痛む握りこぶしを撫でながら、「それでこれが……」と藤野は言葉を繋いだ。
そして今度は、握りこぶしを志賀のみぞおちに叩き込む。
志賀が体を折ってうずくまり、げほっと咳き込む。
「――北里のぶん」
「……な、なんで北里なんだよ」
腹を押さえてゲホゲホと咳き込む志賀の胸倉を掴み上げて、藤野は「お前最低」とはっきりと言い切った。
精一杯の冷たい瞳で睨みつける。
「志賀は、北里の気持ちを知ってて、あんなことさせたんかよ」
「あんなこと、って」
「北里がお前のこと好きだって知ってて、俺を落とす片棒担がせたのかってこと」
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