プランターとティーバッグ

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プランターとティーバッグ

鉢植えの水やりを頼まれたので彼女は庭に出た。いかにも手作りです、といった風情の木製棚に、所狭しと観葉植物が並んでいる。この棚を見るたびに、以前彼が訪ねてきた時のことを思い出して、どうしても笑ってしまう。 その日は日曜日で、朝から彼が訪ねて来ることになっていた。それまでも何度か彼女の家には来ていたものの、日曜日の午前中に来るのは初めてだった。要するに、彼女の父親に会うことが目的だったのである。彼女の母親と弟はすでに何度も彼と顔を合わせている。真面目そうだし落ち着いているし、何より彼女を大事にしてくれそう、というのは母親の言で、自分も工学に興味があるから、難しい話を易しく教えてくれる人が兄貴になるなら大歓迎だ、というのが弟のコメントだった。 ……お父さんは何て言うかなあ? まあ、問答無用で追い返すかな? 娘が嫁に行くとかまだ考えたこともないんじゃない? と母親は笑っていた。笑いごとじゃないし、と抗議すると、お母さんの時もそうだったわ、でも、こうやって結婚してるし、おじいちゃんとお父さんも、それなりに仲良くやってるじゃない、とますます楽しそうだった。横で聞いていた弟は難しい顔になり、うん、俺は席を外しておくよ、とだけ言った。 その日曜日はよく晴れていて、暑いくらいだった。彼が十時に来ると言っていたのにも関わらず、父親は九時から日曜大工セットを取り出し、まったく急がないはずの棚を作り始めた。何してるの、中で待っててよね。彼女の抗議は完全に無視された。 時間通りに呼び鈴が鳴った。玄関まで出てきた彼女は、彼の姿が見えないのでサンダルを履いて庭に出て、いちおう父親にも尋ねておこうと家の裏に回った。父親と彼とが二人で、ベニヤ板を切り出しているのが目に入った。彼は、父親の作業用の上着を羽織らされていた。 何してるの! 見れば分かるだろう、棚を作っている。えーっと……、言葉を探しているとベランダから母親が顔を出した。まあいいじゃない、昼ごはんが出来たら改めて呼ぶわね、とだけ言って、いなくなってしまった。お前も参加するか? ヤスリくらいかけられるだろう。もうちょっと作業できそうな服に着替えてきなさい。そうして彼女も参加する羽目になったのだった。
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