プランターとティーバッグ

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幸い彼は手先は器用で、かといってでしゃばるでもなく、父親のよきサポート役に徹していた。いたたまれなくなった彼女がヤスリがけに熱中していると母親が呼びに来て、昼食となった。弟は宣言通り姿を見せず、父親は何も話さず、母娘が場をもたせるしかなかった。昼食の後に、呼ばれて仕方なく現れた弟も含めた全員で彼女の焼いたキャロットケーキを食べ、お開きとなった。 彼が玄関で靴を履いていとまを告げるべく頭を下げた時、腕組みをして彼を見つめていた父親が、聞き取れるかどうかぎりぎりの声で、娘をよろしく頼む、とつぶやいた。彼女が振り返った時には父親はすでに背を向けて歩き始めており、五分後には庭に出て棚の続きを作っていた。 彼女がリビングに戻ると弟がティーバッグの紅茶をいれていた。お姉ちゃんも飲む? うん、ありがと。 あの棚作りながら待ち構えてたのってすごくない? らしいと言えばそうかもしれないけどね。まあ、認めてくれただけ上出来っていうか十分よね。娘をよろしく、なんて言われるほど話が進んでいる訳じゃないんだけどさ。 お姉ちゃんが嫁に行くとはねえ。しかもあの人、なんていうか、普通にかっこよくて頭良くって優しくってさ、弟としては感慨深いよ。弟は一人でうなずいている。まだ決まってないって。決まったようなものでしょ、お父さんも認めてるんだからさ。結婚式はいつ挙げるの? 考えたことないよそんなの、と目を丸くすると、なんか大変らしいよ? 一回ちゃんと調べてみなよ、まあ、お茶でも飲んでさ、と、マグカップを差し出された。
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