サファイアの指輪とカフェオレ

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――一つの形? ここまで書いて手が止まった。一つの形としてはってことは、彼女自身は幸せだと感じているんだろうか。分からなくなった。分からなくなったというより、そもそも分かっていないことに気付いてしまった、の方が近い。 この話は、自分の現状について考察するために、自分と正反対の人生、つまり、自分くらいの年齢の人間が歩んでいるであろう順調な人生を描き出してみようと書き始めたものだった。それは、誰もが求める幸せと同じものであるはずだと思っていた。そして、誰もが求める幸せと同じものを手にしている登場人物たちがこの上なく幸せであるということについては疑いもしなかった。「まともに」生きるということは順調な人生を送るということと同義であり、その為にはいわゆるレールに乗って就職や結婚、子どもの誕生などを経験していくことが必須であり、それから外れた自分はどこにも行けないのだと結論づけていたからこそ、そういうレールにきちんと乗った人生を書くことにした。 しかし、順調な人生を送っている彼女が感じている幸せが「一つの形」でしかないならば、幸せには他の形もあっていいということになる。どこにも行けないと思っていた自分にも、何か出来ることはあるのかもしれない。
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