自分、他人、もう一人の自分

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自分、他人、もう一人の自分

当然、会いたいと思っていた自分自身は見つからなかった。ある時、自分に会いたいというのは自身を客観視してくれる自分が欲しいということだと気が付いた。自分については何も解決出来なかったにも関わらず他人には的確なアドバイスが出来たということは、自分を他人のように眺めて分析することが出来れば何かが変わるはずだ、そう思った。 自分自身を客観視する手段としては、自分について文章にまとめてそれを読むことしか思いつかなかった。文章には自信があったし、時間だけはたっぷりあった。持て余す位に。 書くことは、現実直視であると同時に現実逃避でもあり、自分について真剣に考えつつ今ここでの自分自身から目をそらすことが出来るという、便利な手段でもあった。 最初は箇条書きだった。徐々に内容が増え、まとまった文章となり、最終的には小説と呼べる形になった。書いているうちに自分自身についての分析という目的よりも書くことの楽しさにのめり込んでしまって、全体の形がまとまりかけたあたりで、多くの人に読んで欲しくなった。そして、これで現状を打破するという望みを抱くようになった。 制作活動という意味ではその後が大変だった。何度も辞書を引き、言葉を変え、そうやって書き上げた段落をまるごと削除して新しいものを書き入れる。こんなに試行錯誤を繰り返すのは初めてだった。 それまで物事に一生懸命取り組んだことなんてあっただろうか。
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