第1章

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「失礼いたしました。当店は、全ての料理がプライスレス。つまり、無料にてお客様へ提供するスタイルでございます」  イケメン店員は、私の目を見てにこやかにそう説明した。 「プライスレス?無料?そんなバカな!?」  私は、少しだけ声を荒らげてしまった。 「会員登録とかして、何十万とか請求が来るのか?」 「いいえ、決してそのような事は、ございません」 「どこで、店の採算を取っているのですか?」  私も、結構しつこい奴だ。 「お客様。当店の料理は、全て親会社の経営するフレンチやイタリアン、和食などの各店から“修行”という形で見習い中の料理人が、各店で余った食材のみを使ってお料理を提供いたしております。なので、お客様にお支払いいただく理由は、一切ございません」  なるほど。って、だからって無料は、怪しいぞ。昔両親によく言われた。 「只ほど高いものはない」  よし、ここは、コイツの言う事を一旦信用して、好き放題料理を頼んでやろう。 「オーロラサーモンのカルパッチョとタンシチュー。生ビールにフォアグラの天ぷら?デザートに切れ端ティラミスをください」 「かしこまりました」 「ふ~、なかなか美味しかったな。ビールもキンキンに冷えてたし」  私は、この一風変わったお店が気に入った。何より、全ての料理が無料だなんて。見習いのシェフとは言え、充分すぎる程美味しい料理だった。 「じゃ、ごちそうさま!」  私は、満足げにイケメン店員に声をかけた。 「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」  イケメン店員は、そう言って店先まで私を、見送ってくれた。  数週間後、あのお店を気に入ってしまった私は、また、平日の3時頃青山一丁目駅から歩いてあのお店に向かった。 「いらっしゃいませ!」  また、あのイケメン店員が私を迎えてくれた。 「また、来ちゃいました!」  店の中を見渡すと、不思議な事に誰一人お客さんがいなかった。 「今日は……空いていますね?」  私は、素直な質問をぶつけてみた。 「お客様、当店は、本日をもって閉店いたします」 「えっ!なんで?」  お店に入って1時間。私は、イケメン店員の話を聞いていた。 「いわゆるSNSを始めとするインターネット上で、当店が話題になりまして。どこかの誰かが投稿した写真や動画、コメントをきっかけにネット上で炎上騒ぎになりまして。それ以降は、もう……」
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